2023.3.26
午前中、クチトンネルを見学した私たちは、ツアーの仲間と一緒に昼食をとるためにテーブルを囲んだ。


イギリスとグアムからの旅行者もいたが、彼らは日本を美しい国だと賞賛し、私たちは好印象を与えたようだった。
私はグアムを訪れたことがあると言ったが、どこに行ったのか尋ねられ、「アイドンノー」と答えてしまった。もっと適切な表現があったのかと考えていたが、後で調べたら、私が訪れた場所はタモンだったことがわかった。
イギリスの方にはどこから来たのか聞いたのに何も広げられなかったし、英会話のレパートリーが無さ過ぎて、昭和のおじさんみたいな、日本人の恥をさらしてしまったような気分だった。
ツアーは、工芸品、ココナッツキャンディ、はちみつの工場を見学した後、ベトナム南部のミトーに到着した。そこで、手漕ぎボートでメコン川をクルーズすることになった。家族で楽しめる乗り物ということで計画されたものだ。


ボートには、現地の人が漕ぎ手として前後に1人ずつ乗り、乗客は3人ほど乗ることができる。最初は、私たちの家族だけで1艘のボートに乗る予定だった。しかし、ボートに乗り込む直前に、ガイドさんからチップを払うように言われた。
その時、彼は「ディファレンス20k」と付け加えた。
私は、「どういう意味だろう?」と思った。
チップを20kと言われるかもしれないが、高すぎるから気を付けろって事かと思った。
後で要求されるチップの金額が気になり、落ち着かなかった。
漕ぎ手は、優しそうなおばさんと人柄の良さそうなお兄さんだった。彼らは子供たちに話しかけてくれたので、私たちは少し安心した。
心地よい揺れに身を委ねた。沿岸にはマングローブ林が広がり、トンネルのように濃い葉が枝を覆っている。静かな水面に映る緑色の景色が、私たちを優しく包み込む。
「2キロもあって大変」と、おばさんが優しそうにアピールした。
これも高額チップへの伏線だろうか?
私はその言葉に釣られ、乗船料以上に高額なチップを渡さなければならないのではないかと不安になり始めた。だが、もうすでにボートは出発しており、降りる際のチップの相場を知ることすら出来なかった。
「ディファレンス20k」という言葉の意味を考え、ジャングル・クルーズを楽しむどころか、チップのことで頭がいっぱいになっていた。
マングローブの間を流れる川を進むにつれ、向かいから乗客を降ろした船とすれ違うたびに、私は焦りを感じていた。ゴールが近づくにつれ、私は不安に駆られた。
降りる際に案の定、「チップマネー」と言われた。
私は20kを渡さず、10k VNDを差し出した。
しかしおばさんは、悲しそうな表情で私の手からチップを受け取らず、両手を後ろにして、受け取りませんポーズをとった。
これも芝居だと思い、チップを払わずにボートから降りた。
次に降りる妻も、後ろで漕いでいたお兄さんからチップを要求されたため、私はおばさんが受け取らなかった10kを妻に渡した。おばさんとお兄さんは、残念そうな表情を浮かべながらも、私たちからもう少し多くのチップをもらいたかったのだろうと思った。
だが、私はあの芝居に騙されたくなかったのだ。私たちは、おばさんたちから離れ、ボートとお別れした。
おばさんの優しい顔と悲しそうな表情が私の心に残り、私は正しいチップの金額をググった。
そこには衝撃的な事実が待ち受けていた。
20k VNDが目安であり、ネットや旅行ガイドにもそのように書かれていたのだ。
ガイドさんがボートに乗る時に言った『ディファレンス20k』は、恐らく『リファレンス20k』でチップの参考価格を言ってくれていたのだ。
勘違いしてしまったのは、自分の英語力の拙さが原因だったのだ。
得た金額、たったの55円。
失ったおばさんの笑顔、プライスレス。
もうちょっと気前よく払っていこうと思ったが、
それが更なる悲劇を生む事になるとは、この時の私は知る由もなかった。